
GW前からいろんなことがありすぎて、書くネタが便秘みたいに詰まってます。
とりあえずGW中に行った鎌倉散歩の話から。
写真は散歩中に出会ったお方です。誰でしょう。答えはこの後出てきます。
たまには行ったことない寺にいこうと、ガイドブックで「新緑の美しいお寺コース」を参考に鎌倉駅から歩きました。
鎌倉の中心を貫く若宮大路から一本路地を入ると、閑静な住宅地。そこに点々と神社や寺があります。大巧寺、妙本寺、八雲神社。シャガの花が清楚に咲いて、ツツジと新緑のコントラストがまぶしい。
まあそういうお寺はガイドブックや観光Webサイトで案内があるからいいでしょう。問題は、次に向かった別願寺(べつがんじ)。
「あれ、このへんにあるはずなんだけどな」
周りには住宅ばかり。でも古い民家の入り口をよーく見たら「別願寺」と書いてある。でも庭に白いテーブルとベンチがあるよ。パラソルもあるよ。どう見てもふつうの人のお宅だよ。
それでも玄関先をのぞいたら、ちゃんと賽銭箱があって、むこうにご本尊が祀られていました。
おっ魚籃(ぎょらん)観音もいるじゃないか。魚籃観音は観音さんが町娘に姿を変えて、籠に魚を入れて提げているのが特徴。ここの魚籃さん、なかなか美人じゃない。
しばらく見とれてから帰ろうとすると、
「コーヒー飲んでいきませんか?」
白いベンチから声が。坊主頭にサングラス。野球帽にオーバーオール。どう見てもペンションのオーナー風。急いでもいなかったので、ふらふらと隣へ座る。
「あの、ひょっとして、ご住職ですか?」
「はい、そうですよ。あっコーヒー200円ね。ありがとうございます」
写真のこの方、別願寺の住職なのでした。なんだか言われるままに、グラサンの「ちょい悪」住職とコーヒータイムを過ごすことになっちゃった。
ベンチもテーブルも住職の手作りとのこと。たしかに風貌は日曜大工が大好きなDIYおじさんって感じ。
「魚籃観音、いいですねえ」
「う〜ん、よくそう言われるけど、自分は生まれたときから見てるから、仏像にあまり興味ないっていうかね」
「ぼくはモノ書きやってまして、こんど仏像の本出すんですよ」
「作家さんなんだ。いいね、自由で」
「そのかわり、お金ないですけどね」
「この寺、小さいでしょ。鎌倉でいちばん小さいんじゃないかな」
「でも居心地いいですよ。現にこうやってコーヒー飲んじゃってるし。あの、この寺の宗派は時宗ということですけど、時宗ってナムアミダブツでしたっけ」
「そう。念仏を唱えることで救われるという、一遍上人が開いたんだよね。鎌倉時代の後期になるかな。全国を念仏して歩き回るから、あんまりお寺作ったりしなかったんだよね。で、最後はのたれ死ぬという感じ」
一遍さんがのたれ死んだのは兵庫県。時宗の本山は藤沢の遊行寺だそうだけど、寺をもたない一遍のかわりに、後の人が建てたらしい。
お寺は権威の象徴。大きな寺には貴族ゆかりの「お宝」がある。昔のお寺ほどそう。だって、もともとお寺は天皇や貴族のために祈る施設で、民衆にはまったく縁のないものだったんだから。
そういう点では時宗ってお宝にまみれてなくて地味なぶん、清貧というか民衆に近いのがいいところ。
だから、時宗の別願寺がこんなにフツーの民家みたいな佇まいなのもうなずけるというわけ。
『お寺にいこう』の取材では正座してお抹茶をいただいたけれど、こうやってお寺でコーヒーってのもリラックスできていいね。
帰り際、サングラスをはずした住職は、すべてを見通したような深い輝きを帯びた目をしていて、ペンションオーナーからいっきに住職の顔になりました。
「いろいろ大変だろうけどな」
「はい、がんばります」
といってお別れしました。

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