2014年04月09日

結局ルネサンスって何?「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館展」レポート

渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで、「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」が開催されています。
(写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影。会期中は撮影禁止です)

ミラノの貴族、ポルディ・ペッツォーリ家はたくさんの美術品を所蔵してるんですけど、ミラノ市内の邸宅が今では美術館になっています(ミラノ中心部にあって、スカラ座やガレリアもすぐ。旅のとき知ってれば行ったのにな〜)。いわゆるプライベート・ミュージアムというやつですね。
そのコレクションが東京に集まりました(その後大阪へ)。

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部屋の写真を交えて邸宅にいるような気分に

今回は、14世紀から19世紀までの作品が部屋毎に展示されていて、わかりやすくヨーロッパ美術を概観できる流れになっていました。

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展示の目玉「貴婦人の肖像」の横であいさつされている、美術館館長アンナリーザ・ザンニさん


ボッティチェリと運慶

いろいろ見どころありますけど、まずはボッティチェリの晩年の作「死せるキリストへの哀悼」にご注目。
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ちゃんとした画像は公式サイトにあります。でも実物を感じるのがいいですよ

ボッティチェリというと、森の中でカミ様たちが集まってる「プリマヴェーラ(春)」とか、ホタテの上に裸の女が立ってる「ヴィーナスの誕生」とかが有名ですけど、今回の作品には、あんなに派手で明るい感じとはちがう、重厚で深刻な感じがただよってます。
この時代、ボッティチェリさんはメディチ家から離れて、ミラノのカリスマ修道士さんにかなり感化されてキリスト教にかなり深く入れ込んでいたんだそうです。

ぼくのブログは、仏像好きな方が多く読まれていると思うのですが、たとえて言うと、運慶の晩年作「無著(むちゃく)」みたいなんですよね(たとえがわかりづらくてゴメン)
ようするに、どちらも若いころは新進気鋭の作家として新様式を打ち出してきたけど、次第に老境に達して、派手さは無いけど深い精神性に裏打ちされた深みといいますか、枯れた味わいが出て、作風にもそれが表れてくるという感じ。

ボッティチェリはルネサンス初期の代表的画家。ルネサンス美術というのは、「古代の復興」と「人間中心主義」ということだそうです。
つまり、古代ギリシャ、ローマのころは、人体こそ究極の美、と捉えていたようで、写実的な人体造形が主流だった。その美意識を復興したのがルネサンス。今回話題の「貴婦人の肖像」も、真横からの肖像画は古代ローマの貨幣とかでよく描かれた題材です。

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「貴婦人の肖像」ピエロ・デル・ポッライウォーロ1470年頃

だから、描く題材の選び方も変わります。それまではマリア像や聖人などキリスト教一辺倒だったのが、古代の神話世界を題材に描くことも増えてきたわけです。

ボッティチェリさんは、ヴィーナスなど古代神話をテーマに、キリスト教以外の世界を描いて、ルネサンス初期の美術シーンを引っ張ってきた。
それってきっと、絵画はキリスト教世界を描くものだ!という「世の常識」から外れたアウトローでパンクな立場だったのかもしれない(笑)。だけどそれが、最後の最後でコテコテのキリスト教絵画にたどり着いちゃった。
彼もいろんな経験を経て、丸くなったんですかね(それとも固くなったのか)。

まあ実際のところは、古代神話も描きつつキリスト教絵画も同時進行で仕事してたんでしょうけど、作風の重さは変わってますよね。

ぼくは日頃、仏像を通して宗教美術に接しているのですが、作家と宗教の関係性というのがちょっと気になるもので、この件でいろいろ思いがめぐるのであります。

ぼくは、ボッティチェリを見ながら、運慶のことを考えていたのでした。
運慶は仏像界の「ルネサンス」である、と日頃の宮澤やすみ講座やツアーで申し上げてますけど、運慶も古典(=天平)の復興が目的でしたからね。あと人体の肉付きを仏像造りに取り入れ、写実的な造形を作ったこともあります。
彼も晩年には僧として高い位を得ていますが、若い血気盛んなころはどういう気持ちで仏像を彫ってたんでしょうかね。


中世の魅力爆発!

ルネサンスのことさんざん書きましたけど、個人的な趣味は、ルネサンス以前の中世キリスト教美術が大好きなのであります!
前の記事では「貴婦人と一角獣展」のこと書いたけど、あれもよかった!

キリスト教(カトリック)の強大な力のもと、ヘタウマなマンガみたいな聖人を描いていた中世の美術界(笑)。時代は魔女裁判にペストに拷問。あのダークな世界に惹かれちゃうんですなあ。

今回、そうした時代の作品もありました。

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「三連祭壇画」ベルナルド・ダッディ 1340-1350年
周囲に受胎告知、キリスト降誕、受難のシーンが描かれる


展示品は、さすが貴族の美意識か、お顔立ちがきれい。でもイタリアやスイスの古い教会に行くと、時代を経てホゲホゲに剥げかけた聖人の壁画や、ブスッとした顔のマリアさんがいますが、それがたまらなくイイ!
べつに写実とか上手な絵だけが価値じゃないからね。

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あと今回の展示では、ヨーロッパの甲冑もありました。これもゾクゾクします。


そんなわけで、ヨーロッパ美術の基本を押さえた、西洋美術の初心者でも充分楽しめる展示になっています。
仏像好きな人にもぜひ行ってほしいです。ボッティチェリより運慶のほうが300年くらい古いから、時代を差し引いて比較すると面白いんじゃないかと。
「この作品、仏像で言うと三十三間堂のアレかな・・・」みたいに置き換えて比較してみるのです。

ほかにもラファエロの初期作や、ダ・ヴィンチの彫像作品(断片)もあるし、日本人は本当にルネサンスがお好きなんですね、と思う展示です。
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「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館所蔵 華麗なる貴族コレクション展」
 4/4〜5/25 BUNKAMURAザ・ミュージアム
 5/31〜7/21 あべのハルカス美術館にて
 http://www.poldi2014.com/


最後に、今回の私的一番のお気に入りはこれ。タイトルは「聖女」だけど、モデルは近所の女の子でしょ〜(笑)
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「聖女の肖像」フランチェスコ・ボンシニョーリ 1505-1510年

 
最後の最後に、夏にこんな講座やらせていただきます。よかったら。

■7月27日 西洋キリスト教美術の魅力〜仏教美術との比較から〜
新宿クラブツーリズムにて




posted by 宮澤やすみ at 18:10 | Comment(2) | TrackBack(0) | 美術展・展覧会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も行ってみたいです(*^_^*)

http://osharefuto.seesaa.net/
Posted by はな at 2014年04月17日 16:23
おすすめです!
Posted by やすみ at 2014年04月28日 18:01
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