高田馬場にある「いせや」さんに出向き、作りを取材しました。
今回は、和菓子の撮影をしたいというアメリカ人映画監督にいせやを紹介したのですが、予想通りものすごくお気に入りのようでした。
いせやさんは、お父さんとお母さん、息子の3人だけでやっていて、古きよきたたずまいがとても和むお店です。

できたてが目の前に・・・
お菓子のラインナップは、豆大福にどら焼きにみたらし団子、すあま、のり巻きいなり寿司も出す、まさに直球ど真ん中の庶民派和菓子路線なのです。
しかし、ひとつひとつの和菓子のレベルは、おそろしいほどに高いんですよ。
私が以前『dancyu(ダンチュウ)』の草もち特集を書いたのは、ここの草もちを食べて衝撃をうけたからなんです。ホントに。

きっかけはこの草もち
まず、草もちのヨモギの香りのよさ。濃く深い緑。絶妙な弾力となめらかな口どけ。そんな主張する餅に対して、中のつぶあんも存在感たっぷり。
小豆の風味と甘みの融合が、「これ以上でもこれ以下でもダメ」という絶妙なバランスで成り立っていて、しっかり甘いのに決してくどくなく、小豆の風味も豊かで、草もち全体のおいしさを底上げしています。
がぶりとひと口いけば、霧深い森林を歩くような、深遠な思索の旅に誘ってくれる・・・。
そんな詩的な思いもつかの間、あまりのおいしさに猛然とかぶりついて、あっというまに食べちゃうんだけどね。
さてこの日の撮影ですが、朝の作りを見学させてもらいました。

豆大福は3人がかりで作る
家族3人が連携し、時には個別に仕事をし、みるみるうちにさまざまなお菓子ができあがってきます。
お父さんが石臼で餅をついている間に、息子はみたらし団子のタレを煮て、お母さんは柏餅の中にみそあんをくるんでいたり。

お母さんが餅にあんをくるんで・・・、

お父さんがふかしあげる。柏餅ができあがり。
つぎつぎにお菓子ができる様は魔法のよう。
ところで、巷にある有名人気の和菓子屋さんは、社用に用いる大会社が近くにあったり、観光名所にあったりと、立地条件も見逃せません。
「いせや」が高田馬場でなく、上野や銀座にあったら、絶対に行列の店になっているはずなんですけどね。
いまひとつ和菓子好きの皆さんに知られていないのが本当に残念。
あまり大げさな文句は書かないこのブログですが、今回は言わせてもらいます。
「いせや」の菓子のためだけに、高田馬場に来る価値あり
菓子のレベルの高さはもちろんだけど、いせやさんが醸し出す、あったか〜い雰囲気というのがいいんです。
シャイなお父さんと、人懐っこい息子さんと、それを笑顔で見守るお母さんと、家族3人の人柄が味になっているようで。
忘れかけていた人情とか人のふれあいとかを思い出し、なんだか感動して泣きそうになっちゃうんですよ。
町の人が立ち寄って、「もう柏餅の季節だね」なんて世間話をして、子供のおやつに、仲間内でのお茶菓子に買っていく、なんてことない日常のひとコマ。これが都心では貴重になりました。
(京都では「おまんやさん」の文化が根づいているのですが、東京ではなかなか・・・)
今どき、商店街の一角で自動ドアもなく、こぢんまりと100円台の餅を作って販売するお店なんて、貴重ですよ。
これは、もはや守るべき「文化財」でしょう。
何百年前の神社仏閣も大切だけど、「いせや」のような昭和の遺産こそ、ぼくらがリアルタイムで守っていける文化遺産なのかもしれません。
そこで、私は、こうした今にも消えそうな和菓子屋のたたずまいと味を「東京和菓子遺産」と名づけてみました。
東京和菓子遺産のおもな特徴は:
●餅菓子、団子などの庶民的な和菓子を扱っている
●お菓子はすべて自家製(あられ、煎餅などは除く)
●家族経営が主体
●自動ドアがなく路面むきだしの店構えが望ましい
といったところでしょうか(今後追加変更もあると思います)。
現時点でぱっと思いつくのは、高田馬場の「いせや」、麻布十番の「京あづま」、高輪の「松島屋」なんてとこでしょうか。
この景観、この味を遺すためにも、ぜひ足を運んでみてほしいなあ。
いせや
東京都高田馬場3-3-9
(山手線の外側 高田馬場西商店街の右側です)


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